結論
規格値は「こうあるべき」と先に決めた基準の数字、実測値は「実際にこうだった」と測って出た数字です。2つが並んでいる書面は合否まで読めますが、実測値だけの書面からは合否は読めません。
この欄には、実際に何と書かれているか?
手元で保管している試験成績証明書1通の試験成績表には、規格値の欄がありません。見出し行に並ぶのは No、試験項目、試験結果、単位、[検出限界]、試験方法の6つで、基準の数字を書く欄も、合否を書く欄もありません。

欄の並びをそのまま書き起こすと、この書面が何を答えていて何を答えていないのかがはっきりします。見出し行は No/試験項目/試験結果/単位/[検出限界]/試験方法の6欄です。1行目の試験項目にはニコチンアミドモノヌクレオチドと化学名が入り、試験結果は 99.9、単位は %、[検出限界]の欄は - で数値の記載がなく、試験方法は記号で参照されて欄外に高速液体クロマトグラフ法と説明されています。発行は一般財団法人 日本食品検査 首都圏事業所、発行日は2021年1月12日、証明書番号は第 320G039306-001 号です。つまりこの1通は、測った結果を証明する書面であって、基準に照らして合格だったと判定する書面ではありません。
書面には「この試験成績の内容を転載する場合は、本法人の承認を得てください」という注記が入っています。そのため、この記事では画像そのものを載せず、欄の見出しと記載内容を文字で書き起こす形にしています。
欄の有無は、書面の良し悪しではなく様式の違いです。試験を依頼するときに基準を提示していれば、それに照らした判定つきの様式で発行されることもありますし、測定結果の証明だけを求めれば、実測値までの様式になります。どちらの様式で受け取ったかは依頼の仕方で決まるので、書面を読む側は、目の前の1通がどちらなのかを見出し行で確かめるところから始めることになります。
| 試験成績表の欄 | この1通の記載 | この欄が答えていること |
|---|---|---|
| 行番号(No) | 1(試験項目は1件) | 試験項目が1件だけであること |
| 試験項目 | ニコチンアミドモノヌクレオチド | 何を測ったか |
| 試験結果(実測値) | 99.9 | 測った結果いくつだったか |
| 単位 | % | その数字が何の単位か |
| [検出限界] | -(数値の記載なし) | この項目に下限が設定されていないこと |
| 試験方法 | 高速液体クロマトグラフ法(欄外の記号参照) | どの分析法で測ったか |
| 規格値 | 欄そのものが無い | 基準の数字は、この書面には書かれていない |
| 合否・判定 | 欄そのものが無い | 合格・不合格の判断は、この書面ではしていない |
自社調べ。保管している試験成績証明書1通の試験成績表を、欄ごとに書き起こしたものです。書面画像は、転載に発行機関の承認が要ると書面に明記されているため掲載していません。
規格値と実測値は、それぞれ何を意味しているか?
規格値は、測る前に決めておく基準の数字です。実測値は、実際に測って出た数字です。順番が違うので、2つは別々の人が別々の場面で決めています。

規格値を決めるのは、その品目を作る側か、取引の当事者です。たとえば純度は何%以上、重金属は何ppm以下、といった形で、受け入れてよい範囲を先に決めます。実測値を出すのは試験を行う側で、決められた分析法で測った結果をそのまま書きます。だから規格値の欄がある書面は、基準を持っている誰かが試験を依頼し、その基準に照らして読める形で発行されたものです。規格値の欄が無い書面は、基準を持っていないという意味ではなく、その書面の役目が測定結果の証明までだという意味です。基準は、依頼した側が別の文書として持っていることがあります。
並び方には型があります。規格値と実測値が左右に並び、右端に適合や合格の欄がある表は、判定まで含んだ書面です。実測値だけが並ぶ表は、判定を読み手や依頼者に委ねた書面です。どちらが上ということではなく、読み手として「この書面はどこまで言っているか」を取り違えないことが求められます。
数字の層を分けておくと、混乱が減ります。書面に出てくるのは測った試料に占める割合で、箱の表示に出てくるのは1粒あたりや1箱あたりの量です。割合と量は単位が違うので、そのまま比べられません。さらに、割合の基準となる規格値は書面の中にあるとは限らず、量の基準にあたる表示の決まりは食品表示の制度の側にあります。どの数字がどの層の話かを毎回置き直すと、書面と表示のどちらを読んでいるのかを見失いません。
この記事で扱わないこと・分かっていないこと
- この書面の依頼者がどんな受け入れ基準を持っていたのかは、書面からは分からない
- 同じ試験項目に他社がどんな規格値を置いているのかは、その書面を見ないと分からない
- 規格値が書かれていない理由が、基準が無いためか、書面の様式のためかは記載されていない
この書面は、何を意味していないか?
実測値だけが並ぶ書面は、合格だったとも不合格だったとも言っていません。数字が高いか低いかの判断は、読み手が別に持っている基準に照らして初めて成り立ちます。
読み違えが起きるのは、数字の大きさをそのまま合否として受け取ってしまうときです。99.9 という数字を見て「基準を満たしている」と読むと、書面が言っていないことを読んだことになります。書面が言っているのは、その試料をその分析法で測ったらその数字だった、というところまでです。基準に照らした判断は、基準を決めた側の仕事として書面の外にあります。数字を比べるときも同じで、規格値の無い書面どうしを並べるなら、比べているのは実測値どうしであって、どちらが基準を満たしているかではありません。
もうひとつ言っていないのが、範囲の話です。[検出限界]の欄が - になっている試験項目では、その分析法で測れる下限がこの書面の上では設定されていません。下限が書かれていない欄を見て「ゼロだった」と読むこともできませんし、「下限より下だった」と読むこともできません。空欄や記号は、答えが無いのではなく、この書面はそこに答えていないという印です。
言っていないことの三つめが、時点の話です。書面の発行日は、その日までに行われた試験についての記録であって、その後に作られた材料や、いま手元にある箱の中身について何かを示すものではありません。日付の欄は、古い書面を退けるための欄でも、新しい書面を持ち上げるための欄でもなく、どの時点の話をしているのかをそろえるための欄です。手元の箱と結びつけたいときは、箱に印刷されたロット番号と書面の記載が対応しているかを販売者に確かめることになります。
- 言っていることこの試料をこの分析法で測ったら、この数字だった
- 言っていないことその数字が基準を満たしていたかどうか
- 空欄の意味答えが無いのではなく、この書面がそこに答えていないという印
- 比べ方規格値の無い書面どうしは、実測値どうしを比べているだけ
この記事で扱わないこと・分かっていないこと
- この書面だけでは、測定結果が受け入れ基準の内側だったかどうかは判断できない
- [検出限界]が - の項目について、測れる下限がいくつだったのかは書かれていない
- 測定を何回行い、ばらつきがどれくらいだったのかは記載されていない
手元の成績書で、この2つの欄をどう読めばよいか?
読む順番は、表の見出し行を先に数えることから始めます。どんな欄があるかを確かめてから中身を読むと、書かれていない欄を勝手に補って読むことがなくなります。

見出し行を読むだけなら、時間はかかりません。欄の名前を左から順に声に出して数えると、規格値と判定という2つの言葉があるかどうかがすぐ分かります。この2語が無い書面は、測定結果までの書面です。
手を動かして読むなら、段階があります。まず試験成績の表の見出し行を左から読み、規格値や基準値にあたる欄があるかどうかを見ます。次に合否や判定や適合にあたる欄があるかを見ます。この2つがそろっていれば、その書面は判定まで含んだ書面です。どちらも無ければ、測定結果の証明までの書面だと分かります。そのうえで実測値と単位を読み、何に対する数字なのかを確定させます。最後に、空欄や記号になっている欄を数え、そこは書面が答えていない部分として保留にします。この順番で読むと、数字の印象に引きずられずに、書面の射程だけを取り出せます。
販売者に聞くときも、欄の名前で聞くと話が早くなります。基準を満たしているかを聞くのではなく、その書面に規格値の欄があるか、判定の欄があるか、無い場合は基準をどの文書で管理しているかを聞きます。欄の名前で尋ねると、答える側も書面を見ながら答えられるので、行き違いが起きにくくなります。
- 手順1|見出し行を数える|試験成績の表の見出しを左から読み、どんな欄が用意されているかを先に確かめます。
- 手順2|規格値の欄を探す|規格値・基準値・許容範囲にあたる欄があるかを見ます。無ければ、基準は書面の外にあります。
- 手順3|判定の欄を探す|合否・判定・適合にあたる欄があるかを見ます。無ければ、その書面は合格とは言っていません。
- 手順4|実測値と単位を読む|試験結果と単位を並べて読み、何に対する数字なのかを確定させます。
- 手順5|空欄を保留にする|- や空欄になっている欄を数え、そこは書面が答えていない部分として保留にします。
規格値の欄がある書面と、無い書面は何が違うか?
違いは、判定を書面の中で行っているか、外に置いているかです。どちらの型かが分かれば、その書面をどこまで根拠として使えるかが決まります。
見出し行を読むだけで、どちらの型かは判別できます。
| 観点 | 規格値の欄がある書面 | 実測値だけの書面 |
|---|---|---|
| 基準の置き場所 | 書面の中に数字として書かれている | 書面の外(依頼した側が別に持つ) |
| 合否の判断 | 書面の中で判定されている | 読み手または依頼者に委ねられている |
| 読み手ができること | 基準に照らして適合を確認できる | 測定結果を事実として確認できる |
| 他社の書面との比較 | 規格値がそろえば同じ土俵で比べられる | 実測値どうしの比較にとどまる |
| 空欄の扱い | 規格値が空欄なら判定も成り立たない | 空欄は書面が答えていない印として保留にする |
自社調べ。試験成績を示す書面の様式を、判定の有無で2つに分けて整理したものです。
よくある質問
- 規格値と実測値は何が違うのですか。
- 規格値は測る前に決めておく基準の数字で、実測値は実際に測って出た数字です。規格値を決めるのは作る側や取引の当事者、実測値を出すのは試験を行う側なので、決める人も決まる時点も違います。2つが並んでいる書面では、実測値が規格値の範囲に入っているかどうかを読み手が確かめられます。
- 規格値の欄が無い書面は、品質が低いということですか。
- そういう意味ではありません。規格値の欄が無いのは、その書面の役目が測定結果の証明までだからです。基準は依頼した側が別の文書として持っていることがあります。読み手として気をつけるのは、その書面が合格だと言っていない以上、合格の根拠としては使えないという点です。
- 実測値の数字が大きければ、基準を満たしていると読んでよいですか。
- 読めません。基準を満たしているかどうかは、基準の数字と並べて初めて判断できます。書面に規格値の欄が無い場合、その判断は書面の外にあります。数字の印象で判断せず、まず見出し行に規格値や判定の欄があるかどうかを確かめると、書面の射程を取り違えずにすみます。
- 検出限界の欄が - になっているのは、どういう意味ですか。
- その試験項目について、測れる下限の数値がこの書面の上では設定されていないという意味です。ゼロだったという意味でも、下限より下だったという意味でもありません。空欄や記号は、答えが無いのではなく、この書面がそこに答えていないという印として読みます。
- 他社の成績書と数字を比べてもよいですか。
- 比べる前に、両方の書面の欄構成をそろえて見る必要があります。分析法が書かれているか、規格値の欄があるか、測ったのが材料か製品か、この3つがそろっていないと、数字だけを並べても同じ土俵にはなりません。欄がそろわない場合は、比べられる範囲までにとどめるのが正確です。
- 書面に規格値が無い場合、基準はどこで確かめられますか。
- 基準は、試験を依頼した側が別の文書として持っていることがあります。受け入れ基準や社内規格といった形で管理されている場合、その存在や項目を販売者に尋ねると確かめられます。書面の中に基準が無いことと、基準が存在しないことは別なので、まずどの文書で管理しているかを聞くのが確実です。
この記事について
出典
- 試験成績証明書(第 320G039306-001 号/一般財団法人 日本食品検査 首都圏事業所/2021年1月12日発行/試験成績表の見出しは No・試験項目・試験結果・単位・[検出限界]・試験方法/規格値と合否の欄は無い)
- ChromaDex, 2021(通販サイト上位22製品の測定。表示どおりだったのは14%、64%は NMN が1%未満)
- Sandalova et al., GeroScience, 2024(18製品の測定で表示との乖離は +28.6% から -100%、3製品は NMN が検出されず)
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。サプリメントの摂取については、かかりつけの医師にご相談ください。
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